自転車で290日をかけて南米大陸を単独縦断(10924km)/カナダ国境からメキシコ国境までのアメリカンロッキー山脈縦走(4200km)/アマゾン川単独筏下り(2000km)/グリーンランド北極圏を単独踏破(750km)/日本人初となる行路「メスナールート」での南極点到達・・・等々、数々の冒険を成功させてきたプロ冒険家・阿部雅龍さん。「単独・人力」のみを条件とし、行き先は純粋に行きたいと感じるところを選び、挑戦し続けてきました。
阿部さんは幼少期、体が病弱でいじめられたりもしていましたが、110年前の同郷の探検家・白瀬矗中尉(日本人として初めて南極に足跡をしるし、最南到達地を「大和雪原」と命名)のように「強く自由に生きる姿」に憧れを抱いていました。大学入学時に始めた空手の稽古を毎日7~8時間欠かさず、おかげで体も強く大きくなり、全国大会にも出られるまでに。「冒険をするためには体が強くなければ」と、無意識のうちに将来を見据えた行動をしていたのです。
その後いくつかの冒険を経て、「白瀬中尉が果たせなかった未完の夢」を引き継ぎ南極点への到達を目指すことに。その第一歩として選んだのは北極圏での単独踏破でした。ただ南極と北極では大きく異なる点があります。南極は大陸の上に平均2000メートルもの分厚い氷が乗っているのに対して、北極は数メートルの薄い氷が海の上に浮かんでいるだけの状態。近年では温暖化に伴い沢山の氷が解け出し、年を追うごとに厚みも薄く、面積も小さくなっていると言われています。そのせいで阿部さんも命の危険にさらされたことがあります。3回目となる北極圏での挑戦中、歩いていた足もとの氷が突然割れ、海に落ちてしまったのです。絶望的な状況下、凍てつく海からなんとか必死に脱出し、安定した氷の上で、体を温めるため約2時間マラソン。翌朝、衛星携帯電話で呼んだヘリに救助され病院に運ばれましたが、10日後には冒険を再開、単独でグリーンランド北極圏750kmを踏破しました。
北極での経験を踏まえ、2018年11月いよいよ南極へ初の挑戦。まずは、成功すれば日本人初となる「メスナールート」での南極点到達を目指しました。南極大陸はオーストラリアの2倍の面積があり、地球で最も強い風が吹く最も寒い(-89℃)土地と言われ、視界360度が雪の地平線なので目指すべき対象物は何もありません。目標となるものが何もなく、120kg以上のソリを自力で引きながら、1日約12時間歩き続けるという過酷な冒険。そんな時だからこそ、阿部さんは出来るだけ楽しいことを考えるようにしました。ネガティブに考えていたら人生つまらない。自分が楽しんでいないと楽しいものも寄って来ない。そして2019年1月、55日間をかけて918kmを単独で南極点まで踏破することに成功したのです。