30年以上の教員経験から「宝物ファイルプログラム」という独自の教育法を伝え、全国からの講演・研修講座依頼が相次いでいる岩堀先生。その手法がどう自己肯定感を高め、またどのように人の成長に影響を及ぼすのか、お伺いしました。
『教師って教えるのが仕事のはずなのに、教えてもらうことも多く、中でも1番私に影響を与えたのが「どの子にも必ずいいところがある」ということ。しかし、子どもたちを評価するのはテストや通知表ばかり。私が1番願ってきたのは、「テストの点数だけが全てじゃない。自分の長所を自分で認めて、ずっと自分のことを大好きでいてほしい」ということでした。この願いから自己肯定感を育てる「宝物ファイルプログラム」は誕生しました。2000年11月、福井県の片田舎の学校の小さな教室から始まった宝物ファイルプログラム。「全く自信がなかった子が体育大会の応援団長に立候補するようになった」「喧嘩ばかりしていた子が友達と仲良くなった」等、予想以上の効果があり、私自身も驚きました。自分のいいところを書けなかった子が10個書けたり、1個だった子が25個書けたりするようになり、体育大会の応援団長に立候補する等、その子が変わっていくのが目に見えて分かるのです。
これらの効果を目の当たりにするにつれて、「もっと世の中に広めたい。役立てたい」と思うようになりました。そして大学院での研究や自身の勉強を進める中で分かってきたことがあります。「欠点も長所もある、ありのままの自分を丸ごと認める気持ち」を指す自己肯定感は、人の心の健康の土台であるということです。人の心を樹木に例えると、自己肯定感は根の部分にあたります。自分を認めてしっかりとした根を地面の中に伸ばしていけば、その根は水分や栄養分を十分に吸い上げ、幹や枝葉に送ります。すると、その樹はやがて、大樹となっていくことでしょう。根が育っていかなければ、どんな花や葉も十分には育たないですよね。
そして、自分のことを肯定できた子は、相手のことも肯定できることも分かっています。それは自分で自分を大切に思う感覚が、同じように相手も大切な存在なのだと気付くことにつながるからでしょう。ただ、注意したいのが、自己肯定感が高いと言っても、ありのままの自分を愛することができず、自分は優れていて素晴らしく特別で偉大な存在でなければならないと思い込む「自己愛性人格障害」とは異なることです。「欠点さえもありのままの自分として認められる」のが自己肯定感なのです。